身代わり王子にご用心
「お茶でも飲んで落ち着きましょうか」
マリアさんによって目の前に置かれたティーカップ。ソーサーに載せられたそれを手に取ると、じんわりと温かさが伝わってくる。
淹れられた紅茶の香ばしくフルーティな香りに、全身の筋肉が解れてくような感覚があった。
落ち着く必要があるのは、ここにいた三人とも、かもしれないな。
チラッと周りを見れば、桂木さんも高宮さんも黙って紅茶を口にしてた。
(今……思い出したけど。私……桂木さんに)
このリビングに連れ込まれた経緯を思い出すと、自然と身体が震えてきた。
桂木さんが言ってた“あいつに渡すと思ったのか?”
……あいつって誰だろう?
まさか、桂木さんは……私がカイ王子と一緒にいたことを知ってたの?
でも、それ以外思い浮かぶ相手はいない。その可能性がある男性なんか皆無だし。そうなれば、彼が私をカイ王子に渡したくない……という意味に取ってしまうのは穿ち過ぎだろうか?
だいたい、桂木さんは藤沢さんと恋愛関係のはずだし。どう見ても彼女を好きで、一番大切にしてきてた。あれを見てたら、私への態度なんて決して好きな女性へ取るものじゃないと解る。
きっと、意地悪しただけなんだろう。スーパーを連絡もなしに無断欠勤してしまった腹立たしさから、とかで。
「あ……あの、桂木さん。勝手に仕事をお休みしてごめんなさい」
ペコッと頭を下げれば、違う方から声が上がった。
「謝る必要ないよ。休みの連絡はアルベルトからあったし、カイからも事情説明はあったから」