身代わり王子にご用心




「大谷さんがクビになったんですか?」

「過去にあった窃盗のほぼ全てと、君への過度な苛めと犯罪行為。これだけ罪が揃った人間を雇う訳にはいかないだろう。ましてや信用や信頼が第一の客商売で、そんな犯罪者を使う訳にはいかない」


桂木さんの言う通りだ。


客商売は信頼性と信用度が大切。それが無ければ商売として成り立たない。


私に罪を擦り付けようとした窃盗行為は、糾弾した大谷さん自身の犯行だなんて。濡れ衣を着せようとした自作自演とかいうものか。


だけど……と気になることを訊ねてみた。


「大谷フロア長はどうなったんですか?」

「彼は直に加担しなかったとは言え、妻の行動を黙認したり裏工作をしたり、と悪質な助長行為をしていた。当然、本来ならば解雇と妻への損害賠償請求が妥当だが、幼い娘がいるという事情を鑑みて。降格して一社員という扱いにすることに決めた。まぁそれでも、犯罪行為の証拠が確認できるまでの一時的なものだろうけど」


桂木さんの説明に心が痛むのは愚かかもしれない。理由や動機がどうであれ、大谷さんが犯罪を犯しフロア長から辛い仕打ちを受けていた現実は変わらない。


まだ私は許せないし、許せるはずもない。20年負った傷はそう簡単に癒せるものではないから。


ただ……


幼稚園にいるという娘さんが気になった。


親が犯罪者……だなんて。きっと居心地が悪い思いをしているだろうに。


どうして大谷さんは、娘さんのことを考えて思いとどまってくれなかったんだろう。悪いことをしたらいずれ発覚するのは当然なのに。よほどバレない自信でもあったのかな。


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