身代わり王子にご用心



「あなたが気にすることはありませんよ」


桂木さんが怒りを抑え込むように、声を低めながら私に話す。


「どんな理由があろうと、犯罪は犯罪ですから。相応の罰を与えられてしかるべきでしょう。社会的な制裁も仕方ない」

「……でも、子どもに罪はありませんよね?」

「子ども?」


訝しげな顔をした桂木さん。何で? とでも言いたげだ。

そりゃそうだ。犯罪者に子どもがいたところで、だからどうしたと言う人がほとんどだろう。ましてや、被害を受けていた側からすれば。


だけど……やっぱり私は気になった。


「大谷さん夫妻にはたしか、幼稚園児の娘さんがいると聞きました。夫婦とも仕事をクビになったら、どうやって養われるかとか。幼稚園で立場が悪くなってないかなとか……気になって」


こんなことまで考えてしまう私は、おめでたい性格かもしれない。


だけど、何の罪もない子どもが親の勝手な事情に巻き込まれ人生を狂わされるのを黙って見過ごすのは嫌だった。


私の父親が身勝手で責任放棄で浮気性の、ろくでない親だったから。私は男性不信に近い状態で誰も好きになれなかったのだし。


親が子どもの人生に与える影響は、他人が考える以上に深くて大きいのだから。


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