身代わり王子にご用心




「カイの短編を?」


訝しげな顔の桂木さんを見て、しまったと思った。単に彼の作品を観てみたかったから……なんて。理由にならないよね。


ましてや、桂木さんはカイ王子にわだかまりを持ったみたいだし。彼びいきだと思われる訳にはいかない。


「あの……私は最近のアニメはあまり詳しくありませんけど。子どもにとって、アニメってやっぱり楽しいものじゃないですか。わくわくするというか……私は家族の思い出あまりありませんけど、一度だけ家族で観に行ったアニメ映画がすごく楽しかった記憶があるんです。
玩具売り場で子ども達の人気者だったカイ王子もきっと、子どもが楽しめるような作品を作ったと思うので」


思い出すのは、いつも子どもに囲まれていたカイ王子の姿。売り上げは悪かったけど、いつもいつも彼は子どもの為に頑張ってた。


本当に、子どもが大好きだったんだなぁと思う。


「そう……かもしれないな」


桂木さんが腕を組んで頷いた。


「僕たちは長編に走りがちだったけど、カイだけは黙々と粘土をこねてた。気の抜けない撮影時も一人で作業をこなして。
作ってたのは動物のキャラクターで、ちょっとファンタスティックなものが多かったな」


カイ王子らしいやと思いながら、子どもの話題で私が思い出したのは美咲ちゃんだった。


少ないお小遣いを貯めてお母さんの誕生日プレゼントを買いに来たのに、私の不甲斐なさで追い返してしまって。あの出来事は心に棘のように刺さってて、思い出すたびにチクチクと痛んだ。

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