身代わり王子にご用心



「上映会とか……は大げさですけど。事情があってテレビがない家庭で育った子どもとかには、特に喜ばれるかもしれません」

「確かに」


うんうん、と高宮さんが頷く。


「ぼくらは売り上げも大切だけど、子ども達を楽しませたり夢を持たせるのも仕事の一部だと思ってる。
玩具を買う買わないにかかわらず、来店するなら立派なお客さんだからね」

「やれやれ、本物の雅幸が暴走し出す。おまえ、ほどほどにしてくれよ」

「ダイジョブ! ぼくほど常識のある人間はいないさ~! さ、暁。れっつ、立案!!」


ハッハッハ~とマシュマロ(大袋)を抱えながら彼の座るソファに移った高宮さん。げんなりした桂木さんを横目に見ながら、マリアさんが立ち上がる。


「さて、お茶も無くなったから淹れ直してくるわ」

「あ、私も手伝います」


お客さんはマリアさんの方なんだから、居候とはいえ住人の私が任せっぱなしなのも申し訳ない。そう思って彼女の後を追いかける。


「そう。それじゃあ一緒に淹れましょうか」


マリアさんの綺麗な笑顔に見惚れながら、何とかトレーを手にしてキッチンまで移動する。


IHクッキングヒーターにケトルをかけると、見慣れた棚から茶葉を出す。ティーカップとティーポットを先にお湯で温めていると、マリアさんが感心したように呟いた。


「ずいぶん慣れてらっしゃるのね。紅茶には詳しいの?」

「ま、真似事ですよ」


カイ王子が紅茶好きだったから、彼のためにって勉強して美味しいお茶を淹れたかっただけ。


もう……会えないだろうけど。


彼のことを思い出すだけで胸が締め付けられ、涙がこぼれそうになった。


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