身代わり王子にご用心
それでも。
私の中に宿った消しきれない醜い妬みが、口をついて彼女にぶつかっていく。
「ま、マリアさんこそ……いいんですか?」
「?」
「曽我部さんたちから聞きました……カイ王子と高校の時に恋人だったって」
やめて、と思うのに。口が勝手に言葉を紡ぐ。嫉妬丸出しなそれは、カイ王子が好きなんだと自らばらしているようなものなのに。
「あら」
それなのに、マリアさんはなぜか楽しそうに笑う。
「もしかすると、それで私に遠慮してたの?」
「……遠慮……じゃあ」
「うふふ、モモカったら可愛い! 勘違いしないで。確かに私とカイは長い間一緒に過ごしたけど。異性としてどうこうなったことはないわ」
「え?」
キッチンのシンクに背を預けたマリアさんは、悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「私とカイは、きょうだいのように育っただけ。決して恋愛にはならなかったわ。
その証拠に、私はマサユキと恋仲になったし。
高校の時はカイの虫除けで偽の恋人をやってただけだから。その時だって手すら握ってないわ。
だから、ね。モモカはもっと自信を持って。
カイは絶対あなたを想ってるから」