身代わり王子にご用心
「うわぁ、美味しい! このフレンチトースト、もしかしてはちみつが入ってます?」
「う……うん」
藤沢さんがあっという間にハニーフレンチトーストを完食したから、新しいトーストを焼こうとフライパンを温める。すると、藤沢さんがライ麦食パンを手にしてた。
「作り方、教えてください。自分でも作ってみたいので」
「あ……そ、そうだね」
冷蔵庫からバターを取り出しながら、もう役に立たないものを目にして気分が沈んだ。
地元産のしらす干し。これと鮭を解したおにぎりが好きだったっけ。
バターを手にキッチンに戻ると、はちみつを抱えた高宮さんがいて驚いた。彼はチューブの口からはちみつを舐めようと試みて、桂木さんに汚いと頭をはたかれた。
「そんなに甘いものが好きなら、蜜蜂でも飼っておけ」
「それはいいな~加工前の蜜を食べてみたかったんだよね。セイヨウミツバチよりニホンミツバチの方が良いかな?」
「冗談を真に受けるな!」
ポンポンとやり取りされる言葉の応酬は、とても自然で時間的なブランクを全く感じない。互いに気を許しているというか、固さが見られないし。本当に幼なじみなんだな、と思えた。
「まったく、マサユキは甘いものを止めないと糖尿になるわよ。わたくしと将来の子どものためを想うなら、健康でいてちょうだい」
「ぐぐっ……そ、それは」
マリアさんのひと言で、高宮さんは決して離さなかったはちみつをしぶしぶ手放す。
彼女が偉大であると同時に、2人がどれだけ真剣か知らされた気がした。