身代わり王子にご用心
「大谷の旦那さんに伝えた方がいいですよ。仮にも父親なら、子どもを養育する義務があるんですから」
私が勢い込んで言うと、坂上さんもそうねえ、と頷く。
「このままだと、児童相談所に通報されかねないものね。子どもにとって、両親や家はたったひとつしかないんだもの」
坂上さんも賛同してくれたなら、善は急げとばかりにサンドイッチをお腹に詰め込む。
この話が店長や本部に伝わってしまったら、今度こそもとフロア長はクビになる。
彼が独身なら自業自得と同情の余地もないけど、子どもがいるとなると話は別。
子どもの為に心を入れ替えて真面目に暮らしてくれれば。そう思って社員食堂から戻る途中の元フロア長を捕まえる。
ところが、私たちの説得に耳を貸すどころか。とんでもないことを言い放った。
「は? 人様の家の事情に首突っ込むって、あんたらナニサマ? ってかよ。おまえのせいでおれの人生めちゃくちゃなんだけど? なんで警察になんざ言ったんだ! 殺すぞてめぇ!!」
ガンッ! と横の壁を蹴られた。坂上さんが引っ張ってくれなかったら、もう少しでお腹に命中するところだった。
「いい加減にしな! 子どももいる大の男がみっともない」
「るっせぇ!ガキなんざいらねえわ! あんなクソ女とはさっさと別れるからな! あんな女のガキがどこでくたばったって知るか!!」
坂上さんが一喝しても、素直になるどころか逆ギレ。また拳を握りしめるから、さらに距離を取ったらバイトちゃんが来て元フロア長にまとわりつく。
舌打ちをしながらも、元フロア長は女のコの腕を取り去っていった。