身代わり王子にご用心



「あの様子だとどうしようもないわね」


残り時間を社員食堂で過ごすけど、気分は重くなる一方。


「本当なら他人である私が関わるのは“大きなお世話”かもしれませんけど。どうしても放っておけないんです。ちっちゃい頃の自分を見るみたいで……」

「そうね……あなたの話は元から聞いてるから。同情してしまうのも無理はないわね」


ふ~……と2人同時にため息をつく。


このまま放っておくのが一番かもしれないけど、それだと最悪犯罪に巻き込まれるか餓死という結末があるかもしれない。

(今は善意で世話してるお隣の奥さんが、ご主人の転勤で3月に引っ越すらしいから)


よくて民生委員か児童相談所に保護され、施設行きは免れないだろう。


(せめて……どちらかが反省して親として自覚してくれたら)


旦那の方はあんなに荒れた様子だから、期待薄。いや、無理に親の義務を果たさせようとしたら、暴力という虐待があるのかもしれない。


絶えない生傷だって、もしかしたら父親からかも?


ろくでない父親だったけど、私は暴力なんて受けたことがない。だから、どれだけ痛いか怖いかなんて。想像すらできない。


坂上さんにその可能性を話すと、彼女もサッと顔を青ざめさせた。


「たしかに、大谷のさっきの様子を見たら。それじゃあ不味いわね……一時的にでも保護した方がいいかもしれないわ」


警察に通報したら、と言うかもしれないけど。それじゃあたぶん根本的な解決にならない。


ひとりっきりで、どれだけ辛くて怖くて心細い思いをしてるだろう。


だから、私は思わず名乗り出てた。


「わ、私が……預かります。妹を育てたこともありますから、大丈夫です。任せてください」


< 291 / 390 >

この作品をシェア

pagetop