身代わり王子にご用心
朱里ちゃんは子どもなのに金色に近い茶色い髪の毛だった。
スモックやスカートは薄汚れて、あちこちにほつれが目立つ。髪もボサボサで肌も茶色い。よくよく見れば、確かに痣や傷痕が垣間見えた。
朱里ちゃんは黄色い園帽を被ってカバンを肩に掛けたまま、やたら落ち着きなく視線をさ迷わせる。
「パパは……? パパは来るの?」
「ううん、パパは来ないよ。これからお城に行って、お姫さまになろっか?」
やたらびくびくしている様子が気の毒で、安心させようと微笑んで頭を撫でた。
「もう、怖いことはないよ。わる~いことは、ぜんぶ王子様がやっつけてくれるんだから」
「……ウソだ」
朱里ちゃんから睨み付けられてしまった。
「王子様なんていないもん! ようちえんのみんなは、朱里がどろぼうっていじめるし。ぱ、パパは朱里をぶつもん!! ごはんもくれなかった。
朱里だって、たすけてって何度も言ったよ。だけど、助けてくれなかった!」
ぶるぶると震えた朱里ちゃんは、ひっ、ひっと喉を鳴らすと、うわぁああ! と声を張り上げて泣き始めた。私は居たたまれなくなって、朱里ちゃんを抱きしめる。
「ごめんね、助けてあげられなくてごめんね」
身勝手な大人ばかりでごめんね――。
声にならない謝罪を心の中で繰り返す。ギュッと抱きしめて背中を撫でて、もう大丈夫だと言い続けてあげること。それしかできなかった。