身代わり王子にご用心
「マサユキ、遂に女の子を誘拐してきたの?」
「な、なんだそりゃ? ボクは確かに子ども好きだけど、倒錯した趣味はありません!」
マンションではマリアさんに疑惑の眼差しを向けられ、高宮さんが焦っていた。
けど、意外なことにマリアさんを見た朱里ちゃんが目を輝かせた。
「わぁ、キレイなお姫さま!」
「ふふ、ありがとう。あなたもとってもチャーミングよ」
ニコッと笑ったマリアさんは、確かにまばゆいほどの美しさ。
高宮さんとの婚約をきっかけに、日本に帰化する覚悟をするくらい意志が強いし。外見だけじゃない魅力が子どもにも伝わってるんだろうな。
「ジュリア、わたくしと一緒にお風呂に入りましょう。そのままじゃシンデレラになれないわよ」
「えっ、ホント? 朱里もシンデレラになれる?」
「ええ。女の子はいつだってキレイにしておかなきゃね。いつか迎えにくる王子様のために」
「うん! 朱里、キレイになる。シンデレラになるんだもん」
なんと。マリアさんがあっさりと問題をクリアして、朱里ちゃんをバスルームへ連れていってくれた。
私がいくら宥めすかしても無理だったのに……
少々落ち込みながらも、朱里ちゃんのオヤツ用に今朝作ったハニーフレンチトーストを焼く。
赤ちゃんにははちみつはダメだけど、朱里ちゃんくらいの年なら問題ないはず。
アレルギーはないって萌絵さんから聞いてるし。後はホットココアでも用意しておこう、と棚を開いて袋へ手を伸ばす。
あと少し……というところで、後ろから伸ばされた手でヒョイと袋を渡された。
「あ……ありがとう……」
振り返って出そうとした私の言葉は、全て音とならない。
唐突に重なった唇に、吸い込まれていったから。