身代わり王子にご用心
夢と現実
お風呂から上がってマリアさんの短めなシャツを着た朱里ちゃんが、ハニーフレンチトーストを頬張り嬉しそうな声を上げる。
「わあっ、あま~い! おいし~い」
「そう、ジュリアも好きなのね。だけど、ご飯が食べられなくなるから、おやつはそれだけね」
「うん! 朱里、グラタンが食べたい」
「わかったわ。とっておきのポテトグラタンを作るわね」
とっても微笑ましいやり取り……何だかすごく自然な会話だけど。
ついさっき初めて会ったばかりの他人……それも異国の人同士のものなんだよね。
マリアさんって、こんなに子どもを扱うのが得意だったんだ。
ダイニングテーブルに子ども用の椅子はないから、マリアさんは自分の部屋からクッションを持ってきて朱里ちゃんを座らせてるし。細やかな配慮は流石、と感心するしかなかった。
私はホットミルクでココアをいれるのが精一杯で。動揺を悟られないために、キッチンに向かって常に何かをしてなければ落ち着かない。
マリアさんが子どもの世話に長けていて、朱里ちゃんが彼女になついてくれたのもありがたい。
自分が引き受けたのだから、責任を持ってしっかりお世話をしなくちゃいけないのに……。
(だけど……)
身体の震えを抑えるために、両腕で自分を抱きしめる。
……桂木さんに何度もされた、キス。それを思い出すと居たたまれなくなる。
(なぜ……桂木さんは私を? 諦めきれないって……本気じゃないよね?)
彼は、私がカイ王子に何をされたのかはほぼ気づいてるはず。それなのに……なぜ?