身代わり王子にご用心
「そうですけど。もう一つ、大切な夢を忘れてますよ~」
藤沢さんはビシッ! と私の鼻に指先を突きつける。
「えっ……何があったっけ?」
初めて抱いた夢については、もうすっかり話したと思うけど?
すると、藤沢さんはおおき~なため息を着きましたよ。
「とぼけないでください! カイ王子に会いたいんですよね?」
鼻先をちょん、とつつかれて。そういえばそう言って泣いた、と。穴があったら入りたい……いや、むしろ埋まりたい気分になった。
「う、う~……たしかに……会いたいけど」
「そんなに気弱でどうするんですか! 美味しくいただかれちゃっただけの食い逃げは、許されるべきじゃないですよ。おうじだろうが何だろうが、きちんと責任をとらせるべきです」
……い、いただかれちゃったって。食い逃げって。
藤沢さん、あなた一体どこまで知ってるんですか!?
ある意味あなたが一番怖いです!
「まずは28日に来店するカイ王子に会って、話を着けましょう!」
暴走しそうな藤沢さんを止めるべく、私は彼女の腕を掴んで必死に別の話題に切り替えようと試みる。
このままだと本気で突撃しかねないから……。
「そ、そういう藤沢さんは。桂木さんにどんなアピールをするの?」
「えっ……わ、わたしですか?」
桂木さんのことを出したとたん、しおらしく赤くなった頬に手を当てる彼女。
本気で好きなんだなあ……とほのぼのしたけど。
「今度、お食事に誘おうと思うんです」
うんうん。
「次にバーに行ってお酒を」
ふむふむ。
「しこたま飲ませて酔わせて」
ん?
「酔い潰れた桂木さんをホテルに連れ込み、既成事実を作ろうかと」
……ストップ! なんか変、というか犯罪すれすれですってば!
「ほ、本気じゃないよね?」
「やだ~冗談ですよ」
なんてカラカラ笑った藤沢さんの目が……ちょっとマジに見えたのは……気のせいだと思いたいです。