身代わり王子にご用心
母親
「朱里、どーぶつえんに行きたい!」
全店休業日の24日、朱里ちゃんがそう要望したことで行き先が決まった。
私たちの住むO市は中央と東と南に大きな公園があって、中央は市役所に近く。春は桜祭りで賑わうお城に接してる。
南にある公園は交通教室があって、広い池には白鳥が泳ぎ初春は梅祭りがある。
東はかなり外れの方にあって広大な敷地の中に四季折々の植物や花が楽しめるけど、一番見事なのは秋の紅葉。
そしてここには、無料の動物園が併設されてる。
朱里ちゃんのご要望に応える形にした私たちは、朝からお弁当作りや準備で大わらわ。おまけに、久しぶりに里帰りする桜花と健太朗くんも合流する形だから、ずいぶん賑やかになるな……と年甲斐もなくわくわくしてきた。
考えてみれば、家族でこういうピクニックに来たことはないし。学年ごとの遠足でもほとんど独りぼっちだったから、気心の知れた人たちと、なんて。子どもに戻ったみたいに楽しみになる。
(本当に……この人たちと知り合えて。過ごせてよかった)
私は、3月いっぱいでマンションを去る。
スーパーの店長にも既に辞表を出してあるし、食堂の面接にも行って。スーパーのお休みの日に少しずつ手伝って、4月から本格的に働く手はずになってる。
もう、みんなには伝えた。
特に桂木さんは大反対してきたけど、生まれて初めて持った夢だから譲れなかった。
藤沢さんの援護やマリアさんの説得もあって、しぶしぶ認めてもらえたけど。
まだ、彼は私を見る目が恋しい者へのそれだけど。
なるべく隙を見せないようにして、2人きりになるのを避けてたし。ちょっとでも色をつけた発言をされたらきっぱり拒んできた。