身代わり王子にご用心
「きゃ~桜花、久しぶり!」
「未来も元気そうでよかった~」
ウサギみたいにぴょんぴょん跳ねる藤沢さんは、アイボリーのコートとオフホワイトのスキニーパンツを穿いてる上に、髪を左右に結ってるからホントにウサギに見える。
「健太朗くんは今どこなの?」
「すぐ後ろで荷物係をしてくれてるよ」
桜花の答えを聞いて振り向けば、ラフなシャツ姿の一際大きな男性がバスケットやトートバッグを両手に持ってこちらへ歩いてくる。
健太朗くんは柔道部だったから、体が大きいしたくさん食べるんだよね。だから桜花も張り切ってお弁当を作ったんだろう。バスケットは2人分というより5人分くらいの大きさだ。
「桜花も朝、大変だったでしょ?」
「そうでもないよ。今、夜はあんまり眠れないから起きるのは大変じゃないの。どちらかと言えば、作る時の方が大変かな」
桜花の話にん? と引っ掛かりを感じた。
「夜、眠れないの? 体調は大丈夫?」
「うん、まあ……日中の方がたびたび眠くなるから。あと、体調はね……」
いつも物事をはっきり言うタイプの桜花にしては珍しい。要領を得ないというか……。
「桜花、あんまり水辺に行くな。体が冷えるだろ」
健太朗くんがなぜか焦って桜花の首もとに分厚いショールを巻く。いつもは礼儀正しく挨拶してくれるのに、桜花しか見えてないって感じだ。
「あらら~健太朗くんたら、桜花以外何にも目に入らないんだね~」
ニヤニヤと藤沢さんがおじさま並みににやけてると、ハッと我に返ったらしい健太朗くんの頬が赤くなった。
「す、すいません……つい。桃花さん、未来さん。お久しぶりです。今日は誘って下さってありがとうございました」
律義に頭まで下げてくれる挨拶は、さすがに体育系。きっちりしてるなあ。