身代わり王子にご用心





あちこちで梅の花が満開で、薄紅色や紅梅色、白色が青い空によく映える。一足早い春を梅の薫りに感じながら、春の光に輝く水辺を歩いた。


「……やっぱり、お姉ちゃんはカイ王子が好きなんでしょ?」


ストレートに切り出された言葉に、私は足を止めて妹を見る。完璧に女の子らしい姿の彼女は、私をジッと見て答えを待っている。


唯一残った肉親であり、もうすぐ家族でなくなる妹。それだから、素直にならなくちゃ……と頷いた。


「うん……自分でも身のほど知らずと思うけど、どうしようもなかったの。
彼が“ちっちゃい王子さま”と知らなくても、惹かれていったんだから。止めようがなかった」

「恋って、そういうものじゃないかな」


水辺の柵に手を置いた桜花は、輝く湖面を眺めながらしみじみとつぶやく。


「条件を知った上でないと好きになれないなら、それは本当の恋じゃないよ。恋ってのはいつ、どこで誰を相手に落ちるのか解らない。
お姉ちゃんはカイ王子のどこを好きになったの?」

「え?」


桜花が急に訊いてくるものだから、一生懸命頭を整理してみようとするけれど。すぐには出てこなかった。


焦る私に、桜花はクスッと笑う。


「それでいいんだよ、お姉ちゃん。好きになった理由なんて後付けみたいなものだもの。
はっきりした理由は解らないけど、気がついたら好きになった……そんなものじゃない?」

「そ……そう?」

「そんなものです。わたしだって、いつの間にか健太朗を好きになってて。いつ? とか聞かれても困るもん」


ふふっ、と桜花は少女のような笑みをくれた。


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