身代わり王子にご用心







『水科さんに見ていただきたいものがあるんです。ご都合がよろしい時間を教えてください』


警察署の大隅刑事から私あてに連絡があったのは、ピクニックの翌朝で。桂木さんと藤沢さんが朝帰りをした直後。


疲れきった桂木さんと艶やかな顔をした藤沢さんを横目に、ダイニングの電話でやりとりをした。


「見ていただきたいもの……ですか?」

『はい。どうしても……と被疑者が言ってましたので。午前中でしたら午前9時~11時半までの間が接見可能時間となります』


接見? たしか拘留中の被疑者に会うことだと思ったけど。たしか、大谷さんは否認による接見禁止が裁判所から出されてたはず。


そのことを話すと、今回は特別に許可が出たそうで。どうやら会うのも直にではないらしい。


(大谷さんはいったい何のつもりで……)


そう考えていた私の耳に、更に意外な大隅刑事の言葉が飛び込んできた。


『たしか、被疑者の娘さんが水科さんに保護されていましたよね? 出来たら彼女もご一緒に連れてきてくださいますか?』

「……えっと、それは」


朱里ちゃんは母親に会いたくない、とはっきり言ってたんだし。勝手に連れていくのもどうかなと思ったのだけど。


「水科さん、朱里ちゃんには僕から話をします。ですから、今回は連れていきましょう」


桂木さんが何か含みを持たせた物言いをしたから、もしかすると昨日の“用事”と関係するかと思い、ひとまず「わかりました」と返事しておいた。


というか……


桂木さんが一晩でえらくげっそりと窶れて精気が感じられなくなりましたけど。藤沢さんはいったい……と彼女を見れば。


“一晩掛けてたっぷり美味しくいただきました”
なんて言葉が藤沢さんの顔にばっちりと書いてありましたよ。


肉食女子、あなおそろしや~!


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