身代わり王子にご用心
さすがに事情が事情なだけに、店長に連絡すると出勤を午後からにしてもらえた。
朱里ちゃんを警察署に連れていく、と聞いたマリアさんは付き添いを申し出てくれた。もちろん彼女は無関係だから接見はしない。
桂木さんが運転する車で警察署に出向き、大隅刑事に教えられ接見の手続きを取ってから、大隅刑事や弁護人と共に接見室に向かう。
朱里ちゃんとともに先に接見室に入ると、狭い部屋の中程がプラスチックの透明な板で仕切られ、折りたたみ椅子が向かい合う形で置かれてる。
被疑者側には小さな机と椅子が置かれた他はがらんとした印象。
「狭くてなんかヤダ」
朱里ちゃんがそう言って不機嫌になった時、ドアが開いて人が入ってきた。
半月ぶりに見る大谷さんは、長かった毛をバッサリ切って。今はシンプルな白いシャツとベージュのパンツという出で立ち。
化粧っけがない疲れきった顔で、あの強気な彼女と同一人物と思えないほど面変わりしてた。
被疑者側には看守とおぼしき制服を着た人が立ち、会話の記録をする警察官が机のある椅子に座る。
これからの会話はすべて記録が残り、裁判の際の参考にもされる。気を引きしめながらも、彼女がなぜ自分から面会を希望していたのか。どう考えてもわからなくて相手の出方を待った。
とはいえ、接見時間は15分しかないから。あんまり無駄な時間は使えない。
なんて考えてるうちに、大谷さんの目が意外な方を向いた。