身代わり王子にご用心
今日は製作スタッフがそのまま会場設営スタッフとなって、上映会イベントを行うみたいだ。
監督の春日さんを始め、曽我部さんや物部さんなど。以前上映会でお会いした方々はほぼ揃って、ボランティアで設営を担当してくれてる。
桂木さんがきちんとバイト料を出す、と言ったらしいけど。作品を見せる機会を作ってくれたから、それならば逆にお金を払うと主張されて。ボランティアという形で落ち着いたみたいだった。
「おまえが、情報大学総合情報学部総合情報学科や芸大の映画制作コースに進みたかったのは知ってる」
春日さんは桂木さんに歯に衣着せぬ物言いをする。
「春日先輩!」
体の大きな物部さんが咎める声を上げるけれど、春日さんは止めることはない。
視線を落とした桂木さんに、彼は容赦なく切り込んだ。
「おまえは明かすまいとしていたが、下世話な噂はよく聞こえた。葛城の関係者だ……愛人の子どもだ……と。
だが、だからなんだ?
ものを作るのに血筋やなにかが必要なのか? 」
「……それは」
項垂れた桂木さんに、春日さんが鼻を鳴らす。
「俺たちもバカにされたもんだな。所詮本気でない、趣味のお遊び程度の映像作りに振り回されていたとはな」
「違う!」
突然、桂木さんは顔を上げて春日さんを睨み付けた。
「僕は、本気だった。真剣に作って、それがきっかけになって周りに映画業界を認めさせるつもりだった!……だけど」
「だけど、は言い訳だ。おまえは結局、周りでなく自分に負けたんだよ。無一文で映画業界に飛び込む覚悟もなしに、スーパーで働いているという現実が証明している」