身代わり王子にご用心
「呼び出したのはオレを笑うためか」
「ち……違うけど。ふふっ」
肩を揺らして笑う私に、拗ねたままのカイ王子が微妙な顔をする。
けど、突然ふっ……と力を抜いたような笑みを浮かべた。
「そうやって笑えるなら、アンタは大丈夫だ」
「……え?」
「もう、悪い夢は見ないだろう?」
「……!!」
カイ王子のひと言に、そうだと思い出した。
なぜ、彼が私の悪夢のことを知っていたのか。
そして、なぜ夏に我が家に来ていたのか。
それも、私が眠っている時に限って。
「カイ王子に、お訊きしたいことがあります」
改めて姿勢を正した私は、両手を膝の上に置いて彼をまっすぐに見つめる。
微かに震える手を握りしめ、静かに問いかけた。
「妹から、聞きました。あなたが夏に私の家に忍んで来られたことを。
なぜ……私が眠っているような夜にお越しになったのでしょう? 私が悪夢を見ていたことと関係があるのでしょうか?」
「………」
カイ王子はすぐに答えず、自分でデカンターから水を注いで喉に流し込む。また腰を浮かしかけた私に「いい」と片手で制してから、ゆっくりと口を開いた。
「……オレは、あの雪の日。アンタがあの女にひどい目に遭わされるのを見ていられなかった。だから、あの女を突飛ばして雪から出そうとしたが……結局小さすぎたオレは一人では無理で、他人の手を借りたのが悔しかったんだ。
あの女はずっと呪詛のように、アンタへの恨み辛みを呟いてて……きっと、後でアンタへ何かをするってわかってた」