身代わり王子にご用心



あの女、とは大谷さんのことだろう。


だけど……


「なぜ、わかってたなら私に話してくださらなかったんですか?」

「王子とはいえ、たった3つのガキに何が出来る?
その時だって何となく不安になっただけで、何がどうなるかなんて想像もできやしない。
それに……20年前は今よりずっと身分に厳しかった時代だ。異国の王子が一般庶民に話しかける……なんて許されない。
だから、母上に無理を言って年に一度……盆の里帰りの時だけ、様子を見に行かせて貰っていたんだ」


それに母王妃が御忍びで旧友を訪ねる、というスタンスだから。ついでに連れていって貰えたといっても、仲良くなったり話すには障害が多すぎた。


「……日本語は5つの時に雅幸が来るまで、マトモに話せなかった。覚えてからは……悪夢に悩むアンタに、自分なりに話しかけてたように思う」


そっか、とそれで納得出来た。年を追うごとに悪夢に悩まされる回数が減って、代わって時折聞こえてきた優しい声。


あれは……カイ王子だったんだ。


「そうでしたか……お陰で、悪夢はもう見なくなりました。大谷さんが逮捕され、彼女が罪を認めましたから」


すると、カイ王子はチラッと朱里ちゃんを見た。


「……聞いた。子を想うゆえに反省したのだ、と」

「朱里ちゃんは……当分マリアさんが養育します。高宮さんとともに」


マリアさんと高宮さんのことを出したのは、カイ王子の反応を見るつもりではないけど。やはり気になっていたからか。


やっぱりカイ王子もマリアさんを憎からず思ってないとしたら、なんて。どこまで嫉妬深いんだろうとうんざりしてしまう。


< 347 / 390 >

この作品をシェア

pagetop