身代わり王子にご用心




「マリアなら安心だろう。雅幸はともかく、彼女はしっかりしている」


カイ王子もマリアさんに全幅の信頼を置いているようで、胸がチリチリと痛んだ。


「お、幼なじみと聞きました。とても仲がいいと……婚約まではいかずとも、とても深い絆があるようで……」


(ば、バカ……なに嫉妬丸出しの言い方をしてるのよ)


あまりに嫉妬深い自分が嫌で、カイ王子がマトモに見られない。水を飲む振りをして視線を落とした私に、カイ王子の淡々とした声が聞こえる。


「まあな、マリアとは幼なじみで家族同然だが……姉のようなものだ。あんなしっかりし過ぎた女を妻にしたら、一生尻に敷かれるはめになる」


雅幸も気の毒にな、とククッと笑う様は、羨ましいというよりも楽しそうだという表現がぴったりだ。


カイ王子は……マリアさんが好きじゃない!


今までの懸念のひとつが消えてホッとしたけど。最大の心配ごとはより気が重くなるけれど、訊いておかないと……と急いで訊ねる。


「ま、マリアさんからは……あなたに、す……す、す好きなひとが……いる……と聞きました。あの、……その方と……こ、婚約のご予定とかは……」


震えるな、声! と叱りつけながらも、なんとか最後まで言い切った。


カタカタ震える両手を組み合わせて握りしめ、不安で押し潰されそうになりながら答えを待つ。


そして……




「……まだ、正式な予定はない。だが、いずれヴァルヌスで披露し大々的に、とは考えている」


「……!」


やはり……いるんだ。


ヴァルヌスで待つ、最愛の女性が。


絶望するには、十分過ぎる言葉だった。

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