身代わり王子にご用心



「でも男の子も良いよ。将来サッカー選手でワールドカップに! って健太朗が夢見てるし」


桜花がお腹をさすりながら微笑む。その顔はすっかり母親で、ちょっぴり羨ましく思う。


「今、何ヶ月だったっけ?」

「5ヶ月に入ったところかな。予定日は年明けだから、桐花とは年子になりそう」


2人目を身ごもった桜花は、親友の未来さんと育児談義に花が咲く。どうしたってついていけない話題に、寂しさを感じてお料理を取りにテーブルに向かった。


「よ! おめでとう。桃花ちゃんも念願の料理人さんかあ」


珍しく白いワンピースを着た曽我部さんは、なぜか私にケーキを渡してくれる。


「お気に入りのお店のニューヨークチーズケーキ。これを食べるといつも上手く行くから、験担ぎでここぞ! という時に買ってるの。桃花ちゃんがこれから挑む道が上手く行きますように……って」


たしかこれは東京でしか売ってない、って聞いたことがある。わざわざ私のために……と胸が打たれた。


「あ、ありがとうございます……いただきます」

「なんのなんの! 桃花ちゃんやカッちゃんのお陰で、私らもインディーズじゃない映画を作れるようになったし。来年には第一作が劇場公開されるもの。みんながホントに感謝してるんだよ」


曽我部さんの言う通りに、春日さんが主宰する同好会はとある映画の製作会社の目に留まった。あの短編上映会の作品をたまたま観に来ていた関係者が、気に入ったらしい。


契約までは紆余曲折あったけど、去年の秋にクランクインし夏に撮影を終えた作品が、中編映画の同時とはいえ正月から正式に上映される。


映画部から約10年の長年の夢が叶ったんだ。


< 354 / 390 >

この作品をシェア

pagetop