身代わり王子にご用心
「あらあら、ずいぶん賑やかね」
ゆったりしたワンピースを着たマリアさんが大きなトレーを持ってたから、慌てて走りよりそれを受け取る。
「マリアさんも、ダメですよ。今は妊娠初期なんですから、無理をしちゃ」
「仕方ないわ。ジッとしていると退屈なんですもの。ジュリア、そちらに置いてちょうだい」
「は~い!」
朱里ちゃんは慎重にトレーを持ってテーブルに近づくと、オードブルの載ったお皿を無事に置いた。
「朱里ちゃんもえらいわねえ。すっかりお姉ちゃんになって」
坂上さんが褒めると、えへへと照れ笑いをした朱里ちゃんは胸を張る。
「朱里も春には3年生とお姉ちゃんになるんだもん。もうなんでもできるよ!」
「そうなの。ジュリアったらなんでもお手伝いしたがって……最近は目玉焼きも焼けるようになったのよ」
目を細めて娘を自慢するマリアさんは、本当の親のように……いや、それ以上に朱里ちゃんを愛してる。
「そうだね。この前なんて算数で100点満点取ってきたんだよ。マリアに似て利発で賢いんだ~」
ここにも約一名親バカが。義理の父親になった高宮さんだ。
マリアさんは去年正式に日本に帰化して高宮さんと結婚。今年の春には朱里ちゃんを養子に迎えた。 新居はこのままこのマンションで。
新しい家族の中には来年新しい命も生まれる。
「さいきん、朱里にばっかり意地悪する男の子いるけど。負けないもん!」
朱里ちゃんはなかなか負けん気が強い性格みたいで。ちょっかいかけてくる男の子をいつもやり込めてるみたいだけど。最近その子がどんぐりの指輪をプレゼントしてくれたと話してた。
……獄中の大谷さんも、きっと娘の成長が嬉しいに違いない。小さな恋が芽生える可能性に、思わず頬が緩んだ。