身代わり王子にご用心
「Woher sind Sie?」
「Ich komme aus Japon」
「Ja……これで終わりにしましょうか」
この1年半ドイツ語をマンツーマンで教えて下さった先生が来るのも、今日が最後だった。
「はい。今までありがとうございました」
「いやいや。勉強熱心で驚くほど上達が早かったからね。こちらとしても教えがいがあったよ」
テキストをしまいながら、先生が笑顔でそう褒めて下さった。何となくこそばゆいけど、それよりもと頭を下げる。
「先生のお陰で自信を持ってヴァルヌスに行けそうです。感謝します」
「ヴァルヌスは開放的ないい国だよ。モモカの夢が叶うといいですね」
「……はい」
私は、服の上からそっとその感触を確かめる。
カイ王子がくれた紋章入りの指輪。それにチェーンを通してお守りがわりにしてきた。
辛いときや苦しい時。いつもいつもこれを心の支えにしてきた。
――カイ王子がくれたあの言葉も。
(待ってて……今度こそ、私からあなたに)
ぎゅっと、そのかたちを握りしめた。