身代わり王子にご用心



『すみません、タオルを濡らすくらいのお湯をいただけますか?』

『ああ、構いませんよ。どうぞ』


図々しいとは思ったけれど、背に腹は代えられない。恥を忍んで駅員さんにお湯を分けてもらった。


あまり熱いのは良くないから、濡らしたタオルを少しだけ水で冷やす。肌の温度よりちょっと温かい程度になってから、駅舎を出てベンチに戻る。


おじいちゃんに声を掛けると、膝枕をして欲しいというから。躊躇ったけれど、病人だから、と自分に言い聞かせておじいちゃんの頭を膝に載せる。


おじいちゃんの頭の一番痛む部分にそっと温タオルを当てる。しばらく温め続けると、ホッと息を吐いたおじいちゃんが『楽になった』と呟いた。


『だが、まだめまいがする……すまないが、この診療所へ連れてってもらえるか?』


おじいちゃんがポケットから取り出した紙片を受け取ると、どうやら住所らしい文字が並んでる。


(うっ……これは歩いていけない距離だわ)


それに。めまいがあるというおじいちゃんを歩かせる訳にはいかないだろう。最悪倒れた時に車に轢かれてしまうかもしれない。


『……わ、わかりました。ちょっと待っててください』


駅前のターミナルだから、タクシーを捕まえるのは容易い。だけど。


(い、1kmで5ユーロもするの!?)


ちなみに、1ユーロにつき日本円でだいたい136円くらい。

つまり、1km辺り680円。日本だと平均的な運賃だけど、貧乏性な私にはキツイ出費だ。


(でも、それこそ背に腹は代えられないわ)


涙を飲んで、運転手に行き先を書いた紙を渡した。


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