身代わり王子にご用心
『どうやら落ち着いたみたいですね』
点滴をしたおじいちゃんは、すっかり気分が良くなったらしく。すうすうと寝息をたててた。顔色も戻ってる。
『はい、ありがとうございました……あの、お代はいくらでしょうか?』
『あのひとと知り合いなのかな?』
お医者さんに訊かれたから、とっさにうなずいてしまってた。他人だと治療費が受け取ってもらえないかもしれない。
外見で判断する訳じゃないけれど、おじいちゃんの身なりからして裕福とは見えない。払えなくてトラブルになるより、自分が身銭を切ろうと思っただけ。
『はい……あの。知り合いのおじいちゃんなんです。駅に送る時に頭痛の発作が出て……』
『そうだったのか。けど、保険がないから高いけど、大丈夫かい?』
示された金額は軽く数十ユーロを越えていて、かなり財布に痛い出費になる。
だけど、自分が決めたんだし。と、お札を取り出し清算を済ませると、おじいちゃんが起きるまで付き添うことにした。
それからおじいちゃんが目覚めたのは2時間後で、かなりすっきりして体調も良くなったみたいだった。
『いや、ありがとうな。近くだからわしのアパートでお茶でも飲んでいきなさい』
おじいちゃんに招待され、裏路地にあるかなり古い石造りの建物で、お茶をごちそうになった。
ティーカップじゃなくコーヒーカップになみなみと注がれたお茶は、偶然にも私の好きなジャスミンティー。
『お礼にもならないが、これを持っていきなさい』
ポフリが入った手作りのサッシェをプレゼントされたから、お礼を言って受け取った。
『ありがとうな。また今度お礼をさせとくれ』
おじいちゃんに見送られながら、裏路地から表通りへと出た。