身代わり王子にご用心
とりあえず据え付けのベッドに布団を敷いて、そのまま横になる。
一張羅のスーツがシワになるけど、それよりも休みたい気持ちが勝った。
半日以上の移動と緊張におじいちゃんのお世話で、もうくたくただ。今すぐ眠りたい、とあくびをして目をつむる。
(そういえば……タクシーの運転手さんが変だったなあ)
おじいちゃんを診療所にタクシーで連れていったとき、タクシーの運転手さんはバックミラー越しにこちらをチラチラと見ては首をかしげてた。
主に私でなくおじいちゃんを見てたみたいだけど。どうしたんだろう? おじいちゃんがよほど顔色が悪く、重い病気に見えたのかな。
実際、料金も2割引いてもらえたし。よほど切羽詰まって見えたのかな?
(まあ、いっか……おじいちゃんはまた会ったら、と言ったけど。たぶん……もう会わないと思うし)
おじいちゃんがくれたサッシェを手のひらで握りしめると、ラベンダーのいい香りが広がる。
そのお陰でいい具合に体から力が抜け、固まった身体がほぐれて楽になってく。
そのままスウッと眠りに落ちていった。