身代わり王子にご用心



とりあえず据え付けのベッドに布団を敷いて、そのまま横になる。


一張羅のスーツがシワになるけど、それよりも休みたい気持ちが勝った。


半日以上の移動と緊張におじいちゃんのお世話で、もうくたくただ。今すぐ眠りたい、とあくびをして目をつむる。


(そういえば……タクシーの運転手さんが変だったなあ)


おじいちゃんを診療所にタクシーで連れていったとき、タクシーの運転手さんはバックミラー越しにこちらをチラチラと見ては首をかしげてた。


主に私でなくおじいちゃんを見てたみたいだけど。どうしたんだろう? おじいちゃんがよほど顔色が悪く、重い病気に見えたのかな。


実際、料金も2割引いてもらえたし。よほど切羽詰まって見えたのかな?


(まあ、いっか……おじいちゃんはまた会ったら、と言ったけど。たぶん……もう会わないと思うし)


おじいちゃんがくれたサッシェを手のひらで握りしめると、ラベンダーのいい香りが広がる。


そのお陰でいい具合に体から力が抜け、固まった身体がほぐれて楽になってく。


そのままスウッと眠りに落ちていった。



< 365 / 390 >

この作品をシェア

pagetop