身代わり王子にご用心
『今日は特別なお客様が来るから、特に気合いを入れてちょうだいね!』
富士美さんは朝礼でそう話すと、慌ただしく出ていった。
なんでも、近くに新しい美容関連のお店を出すかららしいけど。それにしても忙しそうだ。
『モモカ、ミシェルが休憩だから、給仕を手伝って来い』
『はい!』
アレックスから出された指示を受けて、エプロンを外し表に出る。
お店はファミレスより少しだけ高級感があるけれど、本格的なレストランよりはカジュアルだ。だから、ギャルソン並みのサービスは必要ないけれど、それなりの接客レベルが要求される。
私はもともとずっと接客業で働いてたから、お客様の仕草や視線でだいたい何を要求しているのか、を読み取るのは得意だと思う。
今もチラッと隣を見ていた人に次のデザートが食べたいんだな、と察して黒蜜のジェラートをお出ししたら喜ばれた。
こういう給仕もお客様の反応を知る上で、貴重な経験になる。やっぱりリアルな体験は何にも勝る勉強だ。
ランチタイムがピークを過ぎたころ、来店を知らせるドアベルが鳴って挨拶をしようとして、驚いた。
だって、あの時のおじいちゃんがスーツを着て、綺麗な黒髪の女性とご一緒に来店されたんだから。