身代わり王子にご用心
『なるほど』
カラトリーを再び手にしたおじいちゃんは、黙々と料理を平らげていく。なんだか上品な食べ方だな……と眺めていると、あっという間にお皿が空になった。
『……なかなか美味しかった。料理人の心は料理が全て語ってくれたな』
そして、カラトリーを置いたおじいちゃんは、娘さんに目を向けて問いかけた。
『弥生さん、どうだね? 彼女と彼女の料理は』
……ん? 弥生さん?
どこかで聞いたことがある名前だなぁ……なんて呑気に考えたら。その弥生さん本人から、意外なひと言が発された。
『……そうですわね。わたくしとしましては、十分合格と思いますわ』
『あ、ありがとうございます』
私としては美味しかった、という意味での賞賛かと思ったのだけど。
『息子が気に入るのも解る気がしますわ、桃花さん。あなたはとっても素敵な女性なんですね』
控えめな笑顔を見たら、それがどこかの誰かとダブる。……いやいや、まさか。勘違いだと思おうとしたけど。
『国王陛下、弥生妃殿下、そろそろ次のご公務に向かうお時間です』
黒いスーツを着た侍従長に促され、やれやれと立ち上がるおじいちゃんが国王陛下だったことも。実は客としていた周りが警備の人だったことも。何もかもが非現実的過ぎて、その場で失神しそうになった。
『モモカとやら、よかったら隣のスーパーに行きなさい。でくのぼうが頑張っておるからな』
国王陛下はかっかっか、と笑いながら、意気揚々とレストランから去っていきました。