身代わり王子にご用心
「ああ、そういえばあったな」
カイはようやく落ち着いたのか、クッションを減らして私の隣に腰かけた。
「あの時、もしかしたらわざと倉庫にいたの? 大谷さんが何かをするとわかって」
「……まあ、な」
カイはこういう話をするときは反応が鈍い。素っ気なくしていた理由が、私を強くするためと知った今となっては、むしろ感謝したい位なのに。
「あの女は桃花に対する執着が異常だったからな。おまえをいびることだけが生き甲斐だったようだ」
今更ながら、あの時カイが助けてくれてよかったと思う。もしかしたら命がなかったのかもしれないし。
「カイ……本当にありがとう。あなたが助けてくれなかったら、この子達を授かることもなかった」
ゆっくりとお腹を優しく撫でる。まだまだ胎嚢も小さくて、人の形を取り始めたばかりのわが子たち。
それでも。わたしとカイが出会わなかったら、決して生まれることがなかった命なんだ。その奇跡を思うと、とても不思議に思う。
「カイ、私は今ほど生まれてきてよかったと思ったことはないよ。あなたを好きになれてよかった……」
いつも、いつでも伝えたい。あなたへの愛を。20年の想いを。
「桃花……」
カイが、間にあったクッションを避ける。そっと私を抱き寄せると、片手で頬を包んでブルーグレイの瞳が近づいてきた……。