身代わり王子にご用心
『失礼します……富士美さんがお越しに』「……まったく、がっつき過ぎでしょう。カイ王子は!」
侍女が来訪を告げる前に、ドアを堂々と開けた富士美さんが吠えた。
「正式な婚約発表もしてないのに、いきなりご懐妊!?しかも三つ子って……いろいろすっ飛ばし過ぎでしょう!」
「別に、結婚式はきちんとするからいいだろう」
素っ気なく言うカイ王子に、再び富士美さんが吠える。
「よいわけないでしょう!! いきなりイヴの日に間に合うようにドレスを作れって! いくら何でもめちゃくちゃよ」
「えっ……イヴの日に結婚式!?」
いったい何の話ですか? 当の本人である私が聞いてないんですけど!!
「カッツエ第一のヴァネッサ大聖堂が総力を挙げて執り行ってくれるそうだ。仮にも一国の王子の結婚式。多数のマスコミが集まるし、世界中が注目する。国際的デザイナー、ハナエ·フジミの名を世界中に知らしめるいいチャンスだと思うが?」
ニヤリ、とカイは富士美さんに不敵な笑みを見せる。
「祖父の国王陛下も母上も、あなたには大いに期待を寄せている。よもや、それを裏切るあなたではあるまい」
すごい、と思った。カイの話術が。
さりげなくチャンスというエサを挙げて、更に国王陛下の期待というプレッシャーで否を言わせない運び方をする。
やっぱりカイは優秀な王子なんだ……と実感した。