身代わり王子にご用心




「別に、待ち合わせなんてしていませんよ。今日はあなたと2人だけですから。なにか不都合でも?」


桂木さんはそうおっしゃって微笑みますが、やや光沢のあるブラックのスリムスーツに大きめな襟の薄いピンク色のシャツを合わせた彼は、ホストと言われてもおかしくないほどの色気が駄々漏れですよ。


もっとも、身に付けている品物も仕草にも品と優雅さがあって、嘘臭さや安っぽさは微塵も感じない。地味に見える靴や腕時計一つを取っても、目玉が飛び出しそうな値段の高級品に違いない。


「い、いえ……ただ。会社の人に見られたら不味いですよね? 藤沢さんと恋人をしているんですから」


2人でなんて聞いてない! と抗議の意味でも、私は彼にそう問いかける。直ぐに部屋に戻れるよう玄関のたたきの部分で粘っていると、桂木さんはクスッと小さく笑う。


「そう言うと思いました。心配しないでください。今日は絶対に誰とも会わないコースを考えましたから」

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