身代わり王子にご用心




「……もっとも、僕としてはむしろ皆に見てもらいたいんですけどね」


ぽつり、と桂木さんが何かを呟いたけど。諦めて靴を履いていた私の耳には届ききらなかった。


「えっと、何か言いました?」

「いいえ、大したことではありません。さ、出掛けましょうか」


実にさりげなく彼が肩に触れたけど、それだけで私はガチッと体が固まった。


悲しいことに、生まれて28年男性と縁がなかったために。こうして異性に触れられるのは、健康診断以外では小学生のフォークダンス以来ですから。


(あ……でも)


先週あったとあるハプニングを思い出しそうになった時、玄関のドアがカチリと開いた。


「あっ……」


目の前に、あの日以来初めて会う高宮さんの姿があった。


あまりに唐突な再会に頭の中が真っ白になって何も考えられず、頬に熱が集まっていくのを感じる。


ドキンドキンと鼓動が速くなっていき、キュッと締め付けられた胸が苦しくなる。


ずっと、気にせず思い出さないようにしていたのに。


倉庫での彼との初めてのキスを思い出して、体が震えた。


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