身代わり王子にご用心




高宮さんはいつもの仕事バージョンじゃなく、黒髪は無造作ヘアで無精髭のまま、ダメージジーンズに緑のチェックのシャツとレザージャケットを羽織っていた。


そして、スクエアタイプのノンフレームメガネ。サングラスみたいにレンズにブラウン色が入ってる。


「お帰り、雅幸。僕は水科さんと出掛けて来るから、留守番を頼んだよ」

「……ああ」


桂木さんがニッコリとそう告げると、高宮さんは短い返事をしただけで私の横を通りすぎてショートブーツを脱ぎ始める。……こちらをチラッと見ることもなく、全くの無関心な彼の様子に。どうしてか胸に重石が載ったかのように気分が沈んでゆく。


けれど、それは直ぐにどうでもよくなった。


ブーツから現れた高宮さんの左足首に、真っ白な包帯が巻かれていたのを見つけたから。


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