身代わり王子にご用心
私は思わず高宮さんのもとに駆け寄り、その場でしゃがんで足首に手を添えた。
「これ、まさかあの時の怪我ですか?」
「……」
高宮さんは押し黙ったまま、私を見下ろしている。ブラウンのメガネ越しだと、うまく彼の瞳が見えない。
……彼の瞳には今、どんな色が浮かんで感情を表しているのか知りたいのに。
1週間前、閉じ込められた倉庫で彼は私を出すために無茶をした。二重ロックの鍵を壊す為に何度も金属製の扉に蹴りを入れたんだから、無事で済むはずがなかったのに。
「ご……ごめんなさい! 怪我をしていたなんて、全然知らなくて。あの……なにか不自由な事があるなら、お手伝いしますから」
「いらない」
申し出をすっぱりと断った高宮さんは、私を「邪魔」と押し退けた。
「これはオレが勝手に負った傷だから、アンタには何の関係もない」
「で……でも。あ、それなら。今日帰って来たらサラダ作りますね」
倉庫を出るときに約束したミモザサラダ。気に入ってくれて嬉しいと言外に含めて提案したんだけど。
「……別に、どうでもいい」
高宮さんはそう言い捨てて、少しだけ足を庇いながら自分の部屋に入っていった。