身代わり王子にご用心
桂木さんに誘導されて車止めにやって来ても、本当は驚くべきだろうに。私の感情は大きく動かなかった。
専用の運転手付きの車が迎えに来るなんて。
しかも、足が伸ばせる上に飲み物を入れるクーラースペースまであって、桂木さんがわざわざ訊ねてくれる。
「喉、渇いてない? ジュースにお茶にコーヒーもあるよ」
「じ、じゃあお茶を……」
ペットボトルだけどお茶をいただいて、ありがとうとお礼を言ってフタを開けようとしたら。どうしてか固すぎて開かない。
「開けられないの? 貸して」
桂木さんは私からペットボトルを奪うと、いとも簡単に固いフタを開けて手渡してくれた。
「あ、ありがとう……」
「どういたしまして」
彼はいつもの笑顔で返した後、薄紅色の瓶の飲み物を口にした。
そして、笑顔のまま私に訊ねる。
「雅幸と、なにかあったの?」