君の世界からわたしが消えても。

 視線はゆらゆらと揺らいでいて、なにか言いたげに、口ももごもご動いている。


 なんだろう、と首を傾げた時だった。


「俺のこと、待っててくれて、ありがとな。美月……と、い、イチ」


 照れ臭そうに言ったカナの言葉に、驚いた。


 ……カナが今、イチの名前を呼んだ。


「お前、名前……」


 衝撃的過ぎて言葉を発することができないわたしの代わりに、イチがそれを言った。


 わたしたちの反応を見て慌てた様子のカナの顔は、ほんのり朱色に染まっている。


「名前、聞いてたけど、壱成って呼びにくいから。美月も、そう呼んでたし」


 カナが言ったその言葉は、いつか聞いたことがあるセリフだった。

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