君の世界からわたしが消えても。

 それを聞いたのは、確か小学校1年生の頃。


 その時のわたしは、カナがなんでイチのことを“イチ”って呼んでいるのかわからなかった。


 壱成ってすごくかっこいい名前なのに、なんで略しちゃうんだろうなあって。


 考えてみれば、“イチ”なんていうのはただのあだ名でしかなくて、カナがそう呼ぶことにも深い意味はなかったんだと思う。


 だけどその頃のわたしは、そのことが気になってどうしようもなかった。


 そんなわたしにカナが言ったのが、さっきの言葉だ。


 『“いっせい”ってよびにくいからっ。それに、“イチ”の方がアイチャクわくだろ?』


 “愛着がわく”という言葉に、なぜだかすごく惹かれたのを覚えてる。


 言葉の意味はわからなかったけど、響きがなんだか可愛い気がして。


 そして、わたしも“イチ”って呼びたくなった。


 イチに対する第一印象は『怖い』だったけど、あだ名の彼は怖くないような気がした。


 その時からわたしもイチというあだ名が気に入って、そう呼び始めるようになったんだ。


 ……すごく、懐かしい思い出。


 カナの言葉で、それを思い出した。


 イチは、カナが自分を今までと同じあだ名で呼んでくれたことにびっくりしているみたいだけど、わたしはイチの2倍は驚いてる。


 カナがそう言ったのは、偶然だったのかもしれない。


 だけど、わたしにとってはそれが、記憶の欠片のように思えた。

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