君の世界からわたしが消えても。
「いやあ、悪いね。またこんなところに連れてきてしまって」
おじいちゃん先生に連れてこられたこの場所は、昨日も来た薄暗い部屋。
こういうところでわざわざ話をするってことは、あんまり良くない話なのかな……。
用意された椅子に座っているけど、落ち着かない。
じっとしていられない衝動に駆られる。
「はづきちゃん、そんなに大した話はしないから、安心して大丈夫だよ」
そわそわしているわたしに気付いたのか、おじいちゃん先生は優しい声でそう言った。
回転椅子にゆったりと寄り掛かって座っている先生は、わたしたちの顔を順番にじっと見た後、話し始めた。
「夏目くんの様子は、どうだったかね」
「え、えっと……」
今日のカナの様子をひとつひとつ思い出していく。
特に変わったことはなかったはず、だよね。
おじいちゃん先生はわたしが話すのを急かすことなく、静かに待っている。
「えっと、昨日までと変わらない、と思います」
「うーん、そうかい」
おじいちゃん先生は顎に手を当ててなにかを考えているみたいで、そのまま黙り込んでしまった。