君の世界からわたしが消えても。

 わたしたちは、なんでここに呼ばれたんだろう?


 おじいちゃん先生は、ただカナの様子を聞きたかっただけ?


 ……そんなはずないよね。


 おじいちゃん先生が担当医なんだから、いつだって様子は見られるはずだもん。


 それじゃあ先生は、一体なにを聞きたがっているんだろう。


「単刀直入に聞くけど、夏目くんの記憶の片鱗とか、そういうものを見たり聞いたりはしていないかい?」


「え、それってどういう……あ」


 そこまで言って、ついさっきの出来事を思い出す。


 それが先生の聞きたいことかはわからないけど、これって話した方がいいんだよね。


 隣に座るイチも、わたしがなにを言うのか予想がついているみたいだった。


「実は、ついさっきのことなんですけど……」


 わたしがイチのことをそう呼んでいたからかもしれないし、偶然かもしれないけど、と前置きして話した。


 カナが、イチのことを以前と同じあだ名で呼んだこと。


 イチを“イチ”と呼んだ理由が、小学生の時に聞いたのと全く同じだったこと。


 カナの言葉を聞いた時、もしかしたら記憶の欠片みたいなものが残っているのではないかと感じたことを話した。

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