君の世界からわたしが消えても。

 先生はわたしの話を聞いた後、「そうか」と小さく呟いた。


「えーと、きみのことは、イチくん、でいいのかな? きみは夏目くんについて、なにか気付いたことがあったかい?」


 突然話をふられたにも関わらず、イチははっきりとした口調で「俺も葉月が今言ったことと同じことに気が付いたけど、ほかはなかった」と答えた。


 それを聞いたおじいちゃん先生の表情が、さっきとは比べ物にならないくらい真剣なものへと変わっていった。


「……これは、あくまで予想なんだけれどね」


 静かな口調で言った先生の言葉が、耳に染み入るように届く。


 なぜか胸がドクドクと音を立て始めた。


 先生が言おうとしていることって、もしかして――……。


「夏目くんが、失った記憶を取り戻す可能性なんだけれどね。高い確率で、あるかもしれないよ」


 それも、その時は早いうちにやってくるかもしれない、と。


 先生の言葉は嬉しいはずのことだったのに、わたしは安易に喜ぶことができなかった。
 
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