君の世界からわたしが消えても。
「……ねえ、ミヅキ。わたしもカナにチョコあげていいの?」
後ろを歩くふたりに聞こえないように、中学1年生のわたしはミヅキの耳元に唇を寄せて聞いた。
ふたりは付き合っているのに、今までと同じようにわたしまでカナに想いを込めたチョコを渡していいのかな、って思ったから。
罪悪感と、ばれやしないかという気持ち。
その光景を眺めると当時の苦しさが、夢を見ている今のわたしの胸に広がった。
ミヅキは、わたしがカナを好きなことには気付いていないから、無邪気な顔で笑ってた。
「今までずっとあげてたのに、今年からあげないとか不自然でしょ? 葉月は気を遣ってるのかもしれないけど、変な気遣いはしなくていいんだよ」
それに、4人一緒にいるのが好きだから、とわたしの気持ちを知らないミヅキは微笑んだ。
ミヅキに曖昧に笑い返す中学生のわたしの顔は、見るに堪えないくらい引きつっていた。
だけど、ご機嫌な様子で歩くミヅキの目に、そんなわたしの姿は映っていないみたいだった。