君の世界からわたしが消えても。

 カナを見て、胸が高鳴った。


 わたしはそのドキドキと鳴る心臓の甘い音に、毎日悩まされていた。


 今のわたしの心に広がるのは、コーヒーみたいにちょっぴり苦い、後味の悪さを残すような鈍い痛み。


 一緒にいる時間全てが愛しくて、ただ幸せだったあの頃とは、もう違う。


 温かい感情に包まれる日もあれば、ドロドロとした感情で埋め尽くされる日もあった。


 カナを好きになって、その想いが叶わなくて、苦しくて、泣きたくなって。


 ……カナの、たったひとりの特別な人になりたかった。


 その柔らかい笑顔を独り占めしたくて、誰にも譲りたくなくて。


 カナを遠巻きに見つめる何人もの女の子を、わたしが瞳で牽制していたことなんて、きっと気付いていないよね。


 でも、もういいんだ。


 わたしもわかってるし、気付いたよ。


 あんなに甘かった時間、カナにときめいていた時の心臓の高鳴りと、今のそれが少しだけ違うこと。


 カナのことは、現在進行形で、恋愛感情として好き。


 それは、はっきりと言える。


 だけど、数年の時を経て、心にも変化は訪れる。


 ただの不毛でしかないこの恋。


 それを終わらせる準備が、自分でも気付かないうちに、わたしの中で始まっていたんだと思う。


 痛いとしか思えなくなってしまった恋。


 ……それはきっと、いつか消える運命にあるはず。


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