君の世界からわたしが消えても。

 自分のことで精一杯で、だからわたしは周りなんて見る余裕もなかったし、甘えることしかできなかった。


 気付けないことも多かった。


 それは今も変わらないけれど、今はほんの少しだけ、あの頃よりは周りが見えてる。


 そして、なにも言わずにそっと心に寄り添っていてくれたイチのことを、考えた。


 わたしが言った「彼女つくらないの?」の言葉に、「今はまだ無理だ」と言った彼。


 わたしの憶測だけど、ミヅキのことを好きだった彼。


 ……イチは、付き合ったふたりのことをどう思っていたんだろう。


 イチとはカナと同じくらい長い時間を一緒に過ごしてきたのに、自分の恋だけで精一杯だったわたしは、イチの気持ちを考えることもなくただ甘えてた。


 空中から見下ろせば、俯きながら歩く、今より幼いわたしがいた。


 この時はただつらくて、隣のイチの姿や表情なんて、見ていなかった。
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