君の世界からわたしが消えても。

 イチはどんな気持ちで、あのふたりを見てた?


 わたしと同じで、俯いてる?


 それとも、敵意むき出しでカナの方を睨んでいたりするの?


 ……イチのことだから、十分ありえる。


 そう思って、過去の自分の姿に焦点を合わせていた目を、今度はあの時見ることができなかったイチの方に向けた。


「……っ!?」


 視線を向けて、息が詰まった。


 ……わたしの予想は、そのどちらもはずれてた。


 彼は、ミヅキの方も、カナの方も見ていなかった。


 視線の先には、わたしがいた。


 ……途端に、視界がぼやぼやと霞がかってきた。


 さっきまではっきりと見えていた自分の姿も、ミヅキもカナも見えない。


 あの時知ることができなかったイチの表情を見る寸前、輪郭は崩れた。


 かろうじて、過去のイチがその隣のわたしに目を向けていることがわかるだけ。
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