君の世界からわたしが消えても。

 これはきっと、夢から覚める前兆。


 今目を閉じて次に目を開いた時には、現実の世界に戻っているんだろうな。


 辺りを見回すと、景色さえもぐにゃりと崩れ始めていく。
 

 この不思議な夢も、終わりなんだなあ。


 そう思って、ゆっくりと瞼を閉じる。


「ねえ、葉月……」


 意識が遠ざかっていく中、わたしの名前を呼ぶ、やけにリアルなミヅキの声が微かに聞こえた気がした。



 ――小さく鳴く鳥の声が聞こえた。


 どうやら朝が来たみたい。


 瞼を恐る恐る持ち上げていくと、視界に映ったのは見慣れたわたしの部屋だった。


 手探りで枕元に置いてある、日付と時間が表示されるデジタル時計を掴み、見る。


 『8月25日 6:38』


 季節は夏で、日付も昨日から1日経っていた。


 間違いなく現実。


 本当にタイムスリップしたかのような、中学1年生の時の冬の日。


 わたしが見たその日のことは、本当に夢だったんだとそれでわかる。

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