君の世界からわたしが消えても。
09 泡沫
起きてから7時間後、夏休み最終日の13時。
わたしはひとり、カナがいる病院の入り口の前に立っている。
一緒に行こうと誘ってくれていたイチに断りを入れて、わたしはゆっくりと準備をしてから来た。
イチは先に行くって言っていたから、もうこの中にいるはず。
「……よしっ」
自分に喝を入れて一歩踏み出せば、わたしを迎え入れるかのように自動ドアが音も立てずに開いた。
肩にかけたひまわりのモチーフがついたかごバッグを持ち直せば、中身がかさりと音を立てる。
中には、カナの好きなクッキー。
ミヅキが得意だった、毎年バレンタインに作っていたお菓子。
ピンクの水玉模様のラッピング袋に包まれたチョコチップ入りのクッキーが、バッグの中にはちょこんと入っている。