君の世界からわたしが消えても。

 わたしが上手く作れるお菓子は、本当はトリュフだけ。


 レシピを見てちゃんと作ってもミヅキほど上手く焼けなくて、三度目の正直でやっと納得のいくものを作ることができた。


 きっと、ミヅキのものとは全然味が違うんだろうなあ……。


 そう思うと、カバンを持つ手に力が入った。


 毎年作るから、ミヅキはその度に改良を重ねて腕も上げて、本当においしいクッキーを焼いていた。


 完全にオリジナルのミヅキのクッキーを焼くことは、わたしにはできない。


 カナはきっと、これがミヅキの作ったものじゃないってわかるんじゃないかな。


 この少しの違和感にカナが気付くのか、緊張。


 記憶を取り戻すきっかけになってくれるかという、期待。


 ……その中に、わたしはひっそりと別のものも混ぜ込んだ。

< 149 / 298 >

この作品をシェア

pagetop