君の世界からわたしが消えても。
……おいしいって言ってくれたらいいな。
そんな願望と、わたしの秘密の気持ちまでもを混ぜ込んだクッキー。
不純で、罪悪感で満たされるような、甘いお菓子。
そんな想いを全部これに詰め込んで、なにも伝えず終わりにできたらいいと思った。
わたしの存在、“ハヅキ”を思い出してくれさえすれば、それでいい。
まだカナのことが好きだけど、きっと終わりにしないと苦しくなる。
カナの一番には、これからずっとなれないだろうから……。
“好き”なんて、絶対言葉には出さない。
……今回だけ。
これで、最後。
カナへの“好き”を混ぜ込んだクッキーを渡して、次に進む準備を始めたい。
傷つくだけの恋は、結ばれることなく終わりが来るはず。
それなら早いうちに、多少強引でも、無理矢理だったとしても、カナへの恋心を忘れ去るべきだから。
そうしたらもう、誰も傷つけずに済むから。
だから、最後にこれを渡させて――。
「はづきちゃん、待ってたよ」
蒸し暑い外から冷房が程よく効いた病院内に入り、滲んだ汗が冷えて乾いた頃。
奥の廊下からゆっくりと歩いてきてわたしにそう言い微笑んだのは、おじいちゃん先生。
ぺこりとお辞儀をしてから、早歩きで傍に寄る。
わたしがイチと時間をずらしてここに来た理由は、クッキーを焼くためだけじゃない。
おじいちゃん先生にだけ、伝えたいことがあったから。